の室《へや》へお行きになって、ぜひにと弾奏をお勧めになった。十三|絃《げん》の琴がほのかにかき鳴らされてやんだ。人けの少ない宮の内に、身にしむ初秋の夜のわざとらしからぬ琴の音のするのは感じのよいものであったが、女王たちにすれば、よい気になって合奏などはできぬと思うのが道理だと思われた。
「こんなにして御交際する初めを作ったのですから、若い子らにしばらく客人をまかせておくことにしよう」
 それから宮は仏間へおはいりになるのだったが、

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「われなくて草の庵《いほり》は荒れぬともこの一ことは枯れじとぞ思ふ
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 こうしてお話のできるのもこれが最終になるような心細い感情を私はおさえることができずに、親心のたあいないこともたくさん言ったでしょう。すまないことです」
 と言ってお泣きになった。薫は、

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「いかならん世にか枯れせん長き世の契り結べる草の庵は
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 御所の相撲《すもう》などということも済みまして、時間のできますのを待ちましてまた伺いましょう」
 などと言っていた。別室で薫はあの昔語りを聞かせ
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