いを作っていたのであろうと憐《あわれ》んではいたのである。
「少しよけいなことまでも言ったようですが、他言をなさいませんように」
 と言って、薫が立って行こうとする時に、
「こちらへ来るように」
 と、院の仰せが伝えられたので、晴れがましく思いながら新女御の座敷のほうへ薫はまいった。
「以前六条院で踏歌の翌朝に、婦人がたばかりの音楽の遊びがあったそうで、おもしろかったと右大臣が言っていた。何から言っても六条院がその周囲へお集めになったほどのすぐれた人が今は少なくなったようだ。音楽のよくできる婦人などもたくさん集まっていたのだからおもしろいことが多かったであろう」
 などと、その時代を御追想になる院は、楽器の用意をおさせになって、新女御には十三|絃《げん》、薫には琵琶《びわ》をお与えになった。御自身は和琴をお弾《ひ》きになりながら「この殿」などをお歌いあそばされた。新女御の琴は未熟らしい話もあったのであるが、今では傷のない芸にお手ずからお仕込みになったのである。はなやかできれいな音を出すことができ、歌もの、曲ものも上手《じょうず》に弾いた。何にもすぐれた素質を持っているらしい、容貌《よう
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