自邸のほうから来ていた人たちが多くて、平生よりも御簾の中のけはいがはなやかに感ぜられるのである。渡殿《わたどの》の口の所にしばらく薫はいて、声になじみのある女房らと話などをしていた。
「昨夜の月はあまりに明るくて困りましたよ。蔵人少将が輝くように見えましたね。御所のほうではそうでもありませんでしたが」
などと言う薫の言葉を聞いて、心に哀れを覚えている女房もあった。
「夜のことでよくわかりませんでしたが、あなたがだれよりもごりっぱだったということは一致した評でございました」
などと口|上手《じょうず》なことも言って、また中から、
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竹河のその夜のことは思ひいづや忍ぶばかりの節《ふし》はなけれど
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だれかの言ったこの歌に、薫は涙ぐまれたことで、自分の心にも深くしみついている恋であることがわかった。
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流れての頼みむなしき竹河に世はうきものと思ひ知りにき
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と答えて、物思いのふうの見えるのを女房たちはおかしがった。その人たちも薫は蔵人少将などのように露骨に恋は告げなかったが、心の中に思
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