て行って舅《しゅうと》に逢った。いつまでも端麗な大臣の顔も非常に痩《や》せ細ってしまって、髭《ひげ》なども剃《そ》らせないで伸びて、親を失った時に比べて子を死なせたあとの大臣は衰え方がひどいと世間で言われるとおりに見えた。顔を見た瞬間から悲しくなって流れ出した涙がいつまでも続いて流れてくるのを恥ずかしく思って大将は押し隠しながら、一条の宮をお訪《たず》ねして来た話などをした。初めからしめっぽいふうであった大臣はさらに多くの涙を見せて、故人の話を婿とし合った。懐紙《ふところがみ》へ一条の御息所が書いて渡した歌を大将が見せようとすると、
「目もよく見えないが」
 と涙の目をしばたたきながらそれを読もうとした。見栄《みえ》も思わず目のためにしかめている顔は、平生の誇りに輝いた時の面影を失って見苦しかった。歌は平凡なものであったが、「玉は貫《ぬ》く」ということばは大臣自身にも痛切に感じていることであったから、相|憐《あわれ》む涙が流れ出るふうで、すぐにまた言うのであった。
「あなたのお母さんが亡《な》くなられた時に、私はこれほど悲しいことはないと思ったが、女の人は世間と交渉を持つことが少ないた
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