たのをかわいく院は思召《おぼしめ》して、
「眠くなっただろうのに、今晩の合奏はそう長くしないはずでわずかな予定だったのがつい感興にまかせて長く続けていて、それも楽音で時間を知るほどの敏感がなく、思わずおそくなって、思いやりのないことをした」
 とお言いになり、笙《しょう》の笛を吹いた子に酒杯をお差しになり、御服を脱いでお与えになるのであった。横笛の子には紫夫人のほうから厚織物の細長に袴《はかま》などを添えて、あまり目だたせぬ纏頭《てんとう》が出された。大将には姫宮の御簾《みす》の中から酒器《かわらけ》が出されて、宮の御装束一そろいが纏頭にされた。
「変ですね。まず先生に御|褒美《ほうび》をお出しにならないで。私は失望した」
 院がこう冗談《じょうだん》をお言いになると、宮の几帳《きちょう》の下からお贈り物の笛が出た。院は笑いながらお受け取りになるのであったが、それは非常によい高麗笛であった。少しお吹きになると、もう退出し始めていた人たちの中で大将が立ちどまって、子息の持っていた横笛を取ってよい音に吹き合わせるのが、至芸と思われるこの音を院はうれしくお聞きになり、これもまた自分の弟子《で
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