し》であったと満足されたのであった。
大将は子供をいっしょに車へ乗せて月夜の道を帰って行ったが、いつまでも第二回のおりの箏の音が耳についていて、遣《や》る瀬なく恋しかった。この人の妻は祖母の宮のお教えを受けていたといっても、まだよくも心にはいらぬうちに父の家へ引き取られ、十三絃もはんぱな稽古《けいこ》になってしまったのであるから、良人《おっと》の前では恥じて少しも弾かないのである。すべておおまかに外見をかまわず暮らしていて、あとへあとへ生まれる子供の世話に追われているのであるから、大将は若い妻の感じのよさなどは少しも受け取りえない良人なのである。しかも嫉妬《しっと》はして、腹をたてなどする時に天真|爛漫《らんまん》な所の見える無邪気な夫人なのであった。
院は対のほうへお帰りになり、紫夫人はあとに残って女三の宮とお話などをして、明け方に去ったが、昼近くなるまで寝室を出なかった。
「宮は上手《じょうず》になられたようではありませんか。あの琴をどう聞きましたか」
と院は夫人へお話しかけになった。
「初めごろ、あちらでなさいますのを、聞いておりました時は、まだそうおできになるとは伺いませ
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