きあそばされたのである。いかなる時にも聞きえなかった妙音も出た。またも昔の話が出て、子息の縁組みその他のことで昔に増した濃い親戚《しんせき》関係を持つことにおなりになった二人は、睦《むつ》まじく酒杯をお重ねになった。おもしろさも頂天に達した気がされて、酔い泣きをされるのもこのかたがたであった。お贈り物には、すぐれた名器の和琴を一つ、それに大臣の好む高麗笛《こまぶえ》を添え、また紫檀《したん》の箱一つには唐本と日本の草書の書かれた本などを入れて、院は帰ろうとする大臣の車へお積ませになった。馬を院方の人が受け取った時に右馬寮の人々は高麗楽を奏した。六衛府の官人たちへの纏頭《てんとう》は大将が出した。質素に質素にとして目だつことはおやめになったのであるが、宮中、東宮、朱雀《すざく》院、后《きさい》の宮、このかたがたとの関係が深くて、自然にはなやかさの作られる六条院は、こんな際に最も光る家と見えた。院には大将だけがお一人息子で、ほかに男子のないことは寂しい気もされることであったが、その一人の子が万人にすぐれた器量を持ち、君主の御覚えがめでたく、幸運の人というにほかならぬことが証《あか》しされて
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