えて出て、纏頭品の箱から一つずつ出して皆へ頒《わか》った。白い纏頭の服を皆が肩にかけて山ぎわから池の岸を通って行くのをはるかに見ては鶴《つる》の列かと思われた。席上での音楽が始まっておもしろい夜の宴になった。楽器は東宮の御手から皆呈供されたのである。朱雀《すざく》院からお譲られになった琵琶《びわ》、帝《みかど》からお賜わりになった十三|絃《げん》の琴などは六条院のためにお馴染《なじみ》の深い音色《ねいろ》を出して、何につけても昔の宮廷がお思われになる方であったから、またさまざまの恋しい昔の夢をお描《か》かせした。入道の宮がおいでになったなら四十の御賀も自分が主催して行なったことであろう。今になっては何を志としてお見せすることができよう、すべて不可能なことになったと院は御|歎息《たんそく》をあそばした。女院をお失いになったことは何の上にも添う特殊な光の消えたことであると帝も寂しく思召すのであって、せめて六条院だけを最高の地位に据《す》えたいというお望みも実現されないことを始終残念に思召す帝であったが、今年は四十の賀に託して六条院へ行幸《みゆき》をあそばされたい思召しであった。しかしそれも
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