殿の離れ座敷を式場にして、螺鈿《らでん》の椅子《いす》を院の御ために設けてあった。西の座敷に衣裳《いしょう》の卓を十二置き、夏冬の服、夜着などの積まれたそれらの上を紫の綾《あや》で覆《おお》うてあるのも目に快かった。中の品物の見えないのも感じがいいのである。椅子の前には置き物の卓が二つあって、支那《しな》の羅《うすもの》の裾《すそ》ぼかしの覆《おお》いがしてある。挿頭《かざし》の台は沈《じん》の木の飾り脚《あし》の物で、蒔絵《まきえ》の金の鳥が銀の枝にとまっていた。これは東宮の桐壺の方が受け持ったので、明石夫人の手から調製させたものであるからきわめて高雅であった。御座《おまし》の後ろの四つの屏風《びょうぶ》は式部卿《しきぶきょう》の宮がお受け持ちになったもので、非常にりっぱなものだった。絵は例の四季の風景であるが、泉や滝の描《か》き方に新しい味があった。北側の壁に添って置き棚が二つ据《す》えられ、小物の並べてあることは定《きま》った形式である。南側の座敷に高官、左右の大臣、式部卿の宮をはじめとして親王がたのお席があった。舞台の左右に奏楽者の天幕ができ、庭の西と東には料理の箱詰めが八十、
前へ 次へ
全131ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング