。手習いに字を書く時も、棄婦の歌、閨怨《けいえん》の歌が多く筆に上ることによって、自分はこうした物思いをしているのかとみずから驚く女王であった。院は自室のほうへお帰りになった。あちらで女三の宮、桐壺《きりつぼ》の方などを御覧になって、それぞれ異なった美貌《びぼう》に目を楽しませておいでになったあとで、始終見|馴《な》れておいでになる夫人の美から受ける刺激は弱いはずで、それに比べてきわだつ感じをお受けになることもなかろうと思われるが、なお第一の嬋妍《せんけん》たる美人はこれであると院はこの時|驚歎《きょうたん》しておいでになった。気高《けだか》さ、貴女《きじょ》らしさが十分備わった上にはなやかで明るく愛嬌《あいきょう》があって、艶《えん》な姿の盛りと見えた。去年より今年は美しく昨日より今日が珍しく見えて、飽くことも見て倦《う》むことも知らぬ人であった。どうしてこんなに欠点なく生まれた人だろうかと院はお思いになった。手習いに書いた紙を夫人が硯《すずり》の下へ隠したのを、院はお見つけになって引き出してお読みになった。字は専門家風に上手《じょうず》なのではなく、貴女らしい美しさを多く含んだもの
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