である。

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身に近く秋や来ぬらん見るままに青葉の山もうつろひにけり
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 と書かれてある所へ院のお目はとまった。

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水鳥の青羽は色も変はらぬを萩《はぎ》の下こそけしきことなれ
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 など横へ書き添えておいでになった。何かの場合ごとに今日の夫人の懊悩《おうのう》する心の端は見えても、さりげなくおさえている心持ちに院は感謝しておいでになるのであった。今夜はどちらとも離れていてよい暇な時であったから、朧月夜《おぼろづきよ》の君の二条邸へ院は微行でお出かけになった。あるまじいことであるとお思い返しになろうとしても、おさえきれぬ気持ちがあったのである。
 東宮の淑景舎《しげいしゃ》の方は実母よりも紫夫人を慕っていた。美しく成人した継娘《ままむすめ》を女王は真実の親に変わらぬ心で愛した。なつかしく語り合ったあとで中の戸をあけて、宮のお座敷へ行き、はじめて女三《にょさん》の宮《みや》に御面会した。ただ少女とお見えになるだけの宮様に女王は好感が持たれて、軽い気持ちにもなり年長の人らしく、保護者らしいふうにも
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