干渉もあそばさなかった。夫人になられた宮に対してだけはよくお教えになるのであったから、以前よりは少しごりっぱな方らしくおなりになった。そんなことが外聞にも知れてくるのを大将は見て、すぐれた人の少ない世だ、紫の女王がこんなに長い間ごいっしょにおられても、だれにもどんなふうな、どんな女性であるという想像もさせない重々しさがあって、静かに深みのある女であることを願って、またさすがに明朗な態度をとり、他を軽侮せず自身の自尊心を傷つけない用意があると思い、何年かの前に野分《のわき》の夕べに見た面影が忘れがたかった。自身の夫人を愛する心は変わらなかったが、その人は相手にしがいのある優越した女性でなかった。恋人を妻にしたあとの安心した気持ちと、その人ばかりを見ている目の倦怠《けんたい》さで、父君が異なった幾人の夫人を集めておいでになる六条院の生活がうらやましくて、だれも皆自分の妻よりも相手にしておもしろい人のように思われてならないのである。その中で姫宮は御身分からいっても最も若い思い上がった大将などには興味の惹《ひ》かれる御存在ではあったが、表面をお飾りになるだけの愛情以外の何ものもないような院の御待遇がこの人によくわかっていて、あるまじい心を起こしたというでもなしに、お顔の見られる時があればよいとは願っていた。右衛門督《うえもんのかみ》も始終六条院へ参っている人であった。この宮を山の帝《みかど》がどんなにお愛しあそばしたかもくわしく知っていて、御婿選びの時以来この宮に好意を持ち、この求婚者には院の帝も決してもってのほかのこととは仰せられなかったという報は得たのでありながら、宮は六条院へ入嫁されたのを残念に思い、心も傷つけられたほどに苦しんで、今でも衛門督は恋を捨てていなかった。そのころから心安くなった女房によって、宮の御様子を聞くのをはかない慰めにしていたのである。
「やはり対の夫人とは御競争がおできにならないようだ」
 と世間の人の噂《うわさ》するのが耳にはいる時、もったいなくても自分の妻に得ておれば、そうした物思いはおさせしなかったはずである。二人とない六条院のようなりっぱな男で自分はないのであるがと、こんなことを言って、始終心安くなっている小侍従という宮の女房を煽動《せんどう》するようなことを言い、無常の世であるから、御出家のお志の深い院が御|遁世《とんせい》になる場合も
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