。ちょっとしたことにもあさはかな邪推などする人が一人でもあれば周囲の人は迷惑するものですからね。あなたがたには欠点がないから私は苦心をすることもない」
 この院のお言葉を聞いて、明石は謙遜《けんそん》をしてよかったと思った。院は対のほうへお帰りになった。
「ますます女王《にょおう》様に御愛情が傾くようですね。実際だれよりもすぐれた、あらゆるものを具足した方なのですから、ごもっともだとわれわれでさえ思うというのは幸福な方ですね。宮様を表面だけりっぱなお扱いをなすっても、あちらにおいでになることが多いのですもの、もったいないことともいわれます。御身分から申しても宮様が一段上の方なのですもの」
 などと姫君に語りながらも、明石《あかし》はいささか自信を持つことができるのであった。それは姫君を持っていることにおいてである。高貴な方でさえ飽き足らぬ待遇を受けておいでになる夫人の中の一人で、薄い院の御愛情などをとやかく自分などは思うべきでないと、そのことではあきらめができていて、明石の心に悲しく思われるのは深い山へはいった父の入道のことだけであった。尼君も終わりの文《ふみ》に書かれた良人《おっと》の一言を頼みにして、未来の世を考えながらも物思わしくしていた。
 源大将は女三の宮をあるいは得られたかもしれぬ立場にいた人であったから、六条院に来ておいでになるのを無関心でいることもできなかった。院の御子としてその御殿へ近づく機会もあって、それとなく観察しているのであったが、ただ若々しくおおようなという点だけのよさがある方のようで、壮麗な六条院の本殿へお住ませになって、今後の例になるまで派手《はで》な御待遇をしておいでになっても、それだけの貴女たる価値のありなしをこの人には疑われた。女房なども落ち着いた年齢の人は少なく、若い美人風、派手な騒ぎをするようなのが数も知れぬほどお付きしていて、歓楽的な空気の横溢《おういつ》しているお住居《すまい》であったから、そんな中に内気なおとなしい人が混じって物思いをしていても軽佻《けいちょう》に騒ぐ仲間に引かれて、それも同じように朗らかなふうをしていたり、毎日幼稚なお遊びの相手ばかりをしている童女の教養なさなどを院は気持ちよくは思召《おぼしめ》さなかったが、一つの趣味の目でものを見ようとされぬ方であったから、それはそれとして許して見ておいでになって、御
前へ 次へ
全66ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング