心を習得するようにつとめるとか、もしくは娘の親たちの好意を思うことで足りないことを補うとか、また親のない人と結婚した場合にも、不足な境遇も妻が価値のある女であればそれで補うに足ると認識すべきだよ。そうした同情を持つことは自身のためにも妻のためにも将来大きな幸福を得る過程になるのだ」
 こんなことも言って閑暇《ひま》のある時にはよく宰相中将を教える源氏であった。この教訓の精神から言っても、仮にも初恋の人を忘れて他の女を思うようなことはできないように中将は思っていた。雲井の雁も近ごろになってことさら父が愁色を見せることを知って恥ずかしく思い、自分は不幸な女であると深く思われるのであったが、表面は素知らぬふうを見せて、おおように物思いをしていた。宰相中将は思い余る時々にだけ情熱のこもった手紙を雲井の雁へ書いた。だが誠をか(偽りと思ふものから今さらにたが誠をかわれは頼まん)と心に思っても、世ずれた人のようにむやみに人を疑うことのない純真な雲井の雁は、中将の手紙に沁《し》んで読まれるところが多いように思われた。
「中務《なかつかさ》の宮がお嬢さんと宰相中将との縁組みを太政大臣へお申し込みになって
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