なって、御蔵品もお取り寄せになった。嵯峨《さが》帝が古万葉集から撰《えら》んでお置きになった四巻、延喜《えんぎ》の帝《みかど》が古今集を支那《しな》の薄藍《うすあい》色の色紙を継いだ、同じ色の濃く模様の出た唐紙《とうし》の表紙、同じ色の宝石の軸の巻き物へ、巻ごとに書風を変えてお書きになったものなどがそれであった。台を短くした灯《ひ》を置いて二人で見ておいでになったが、
「よくこんなにいろいろなふうにお書きになれたものですね。近ごろの人はほんのこの一部分の仕事をするのに骨を折っているという形ですね」
 などと源氏はおほめしていた。この二種の物は宮から源氏へ御寄贈になった。
「女の子を持っていたとしましても、たいしてこうした物の価値のわからないような子には残してやりたくない気のする物ですからね。それに私には娘もありませんから、お手もとへ置いていただいたほうがよい」
 などと宮はお言いになったのである。源氏は侍従へ唐本のりっぱなのを沈《じん》の木の箱に入れたものへ高麗《こま》笛を添えて贈った。
 近ごろの源氏は書道といってもことに仮名の字を鑑賞することに熱中して、よい字を書くと言われる人は上
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