見ようともされないのであった。
左衛門督《さえもんのかみ》の字は本格的に書いてあるのであるが、俗気《ぞくけ》が抜け切らずに、技巧が技巧として目についた。歌などもわざとらしいものが選ばれてある。女の手になったほうの帳は少しよりお見せしなかった。ことに斎院のなどはまったく隠してお出ししない源氏であった。青年たちによって蘆手《あしで》の書かれた幾冊かの帳はとりどりにおもしろかった。源中将のは水を豊かに描いて、そそけた蘆のはえた景色《けしき》に浪速《なにわ》の浦が思われるのへ、そちらへあちらへ美しい歌の字が配られているような、澄んだ調子のものがあるかと思うと、また全然変わった奇岩の立った風景に相応した雄健な仮名の書かれてある片《ひら》もあるというような蘆手であった。
「驚いたものですね。これは見るのに時間を要するものですね」
と宮はおもしろがっておいでになった。芸術家風の風流気に富んだ方であったから、お気にいったものはどこまでもおほめになるのである。この日はまた書の話ばかりをしておいでになって、色紙の継いだ巻き物が幾本となく席上へ現われるのであったが、宮は子息の侍従を邸《やしき》へおやりに
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