に字数を少なく感じよく書かれてあった。源氏は予想に越えたおできばえに驚いた。
「これほどにもとは思いませんでした。自分の書くことなどはいやになるほどです」
 とも言っていた。
「大家たちの中へ混じって書く自信だけはえらいものだと思っていますよ」
 と宮は戯談《じょうだん》を言っておいでになる。すでにできた源氏の帳などもお隠しすべきでないから出して宮の御覧に入れた。支那《しな》の紙のじみな色をしたのへ、漢字を草書で書かれたのがすぐれて美しいと宮は見ておいでになったが、またそのあとで、朝鮮紙の地のきめの細かい柔らかな感じのする、色などは派手《はで》でない艶《えん》なのへ、仮名文字が、しかも正しく熱の見える字で書かれてある絶妙な物をお見つけになった。それは見る人の感動した涙も添って流れる気のする墨蹟《ぼくせき》で、いつまでも目をお放しになることができないのであったが、また日本製の紙屋紙《かんやがみ》の色紙の、はなやかな色をしたのへ奔放に散らし書きをした物には無限のおもしろさがあるようにもお思われになって、乱れ書きにした端々にまで人を酔わせるような愛嬌がこもっているこの片《ひら》以外の物はもう
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