の歌を命ぜられたとおりに捜し出したりするのに役にたつような者を呼んであった。部屋の御簾《みす》は皆上げて、脇息《きょうそく》の上に帳を置いて、縁に近い所でゆるやかな姿で、筆の柄を口にくわえて思案する源氏はどこまでも美しかった。白とか赤とかきわだった片《ひら》は、筆を取り直して特に注意して書いたりする態度なども、心のある者は敬意を払わずにいられないことであった。兵部卿の宮がおいでになったということを聞いて源氏は驚いて上に直衣《のうし》を着たり、座敷へさらに褥《しとね》を取り寄せたりしてお迎えした。この宮もきれいなお姿で、階段を艶《えん》に上っておいでになるのを、女房たちは御簾《みす》からのぞいていた。互いに正しい礼儀で御|挨拶《あいさつ》がかわされた。
「引きこもっていますのが苦しいほど退屈なおりからでしたよ。よくおいでくださいました」
と源氏は言っていた。お頼まれになった書き物を宮は持っておいでになったのである。すぐこの席で源氏は拝見した。非常に巧妙な字というのではないが、一部分に澄み切った芸術味の見えるものだった。歌も常識的なものは避けて、変わったものが選ばれてあって、ただ三行ほど
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