た。尚侍の公務を自宅で不都合なく執《と》ることにして、玉鬘はもう宮中へ出ることはないだろうと見られた。それでもよいことであった。
あの内大臣の令嬢で尚侍になりたがっていた近江《おうみ》の君は、そうした低能な人の常で、恋愛に強い好奇心を持つようになって、周囲を不安がらせた。女御《にょご》も一家の恥になるようなことを近江の君が引き起こさないかと、そのことではっとさせられることが多く、神経を悩ませていたが、大臣から、
「もう女御の所へ行かないように」
と止められているのであったが、やはり出て来ることをやめない。どんな時であったか、女御の所へ殿上役人などがおおぜい来ていて選《え》りすぐったような人たちで音楽の遊びをしていたことがあった。源宰相中将《げんさいしょうちゅうじょう》も来ていて、平生と違って気軽に女房などとも話しているのを、ほかの女房たちが、
「やはり出抜けていらっしゃる方」
とも評していた時に、近江の君は女房たちの座の中を押し分けるようにして御簾《みす》の所へ出ようとしていた。女房らは危険に思って、
「あさはかなことをお言い出しになるのじゃないかしら」
とひそかに肱《ひじ》で
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