言い合ったが、近江の君はこのまれな品行方正な若|公達《きんだち》を指さして、
「これでしょう、これでしょう」
 と言って源中将のきれいであることをほめて騒ぐ声が外の男の座へもよく聞こえるのであった。女房たちが困って苦しんでいる時、高く声を張り上げて、近江の君が、

[#ここから1字下げ]
「おきつ船よるべ浪路《なみぢ》にただよはば棹《さお》さしよらん泊まりをしへよ
[#ここで字下げ終わり]

『たななし小舟《をぶね》漕《こ》ぎかへり』(同じ人にや恋ひやわたらん)いけないわね」
 と言った。源中将は異様なことであると思った。女御の所には洗練された女房たちがそろっているはずで、こうした露骨な戯れを言いかける人はないわけであると思って、考えてみるとそれは噂《うわさ》に聞いた令嬢であった。

[#ここから2字下げ]
よるべなみ風の騒がす船人も思はぬ方に磯《いそ》づたひせず
[#ここで字下げ終わり]

 と源中将に言われた。
「そんなことをしては恥知らずです」
 とも。



底本:「全訳源氏物語 中巻」角川文庫、角川書店
   1971(昭和46)年11月30日改版初版発行
   1994(平
前へ 次へ
全51ページ中50ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング