、惜しんでいる人にも、私の身に引きくらべて同情がされるからお帰りなさい。しかし、どうして手紙などはあげたらいいだろう」
と御心配げに仰せられるのがもったいなく思われた。
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かばかりは風にもつてよ花の枝《え》に立ち並ぶべき匂《にほ》ひなくとも
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と言って、さすがに忘られたくない様子の女に見えるのを哀れに思召しながら、顧みがちに帝はお立ち去りになった。
すぐに大将は自邸へ玉鬘《たまかずら》を伴おうと思っているのであるが、初めから言っては源氏の同意が得られないのを知って、この時までは言わずに、突然、
「にわかに風邪《かぜ》気味になりまして、自宅で養生をしたく存じますが、別々になりましては妻も気がかりでございましょうから」
と穏やかに了解を求めて、大将はそのまま尚侍《ないしのかみ》をつれて帰ったのであった。内大臣は婚家へ娘のにわかな引き取られ方を、形式上不満にも思ったが、小さなことにこだわっていては婿の大将の感情を害することになろうと思って、
「どちらでも私のほうの意志でどうすることもできない娘になっているのですから」
という返事を内
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