ら、帝は妬《ねた》ましくてならぬ御感情がおありになって、最初の求婚者の権利を主張あそばしたくなるのを、あさはかな恋と思われたくないと御自制をあそばして、熱情を認めさせようとしてのお言葉だけをいろいろに下された。こうしてなつけようとあそばす御好意がかたじけなくて、結婚しても自分の心は自分の物であるのに、良人《おっと》にことごとく与えているものでないのにと玉鬘は思っていた。輦車《れんしゃ》が寄せられて、内大臣家、大将家のために尚侍の退出に従って行こうとする人たちが、出立ちを待ち遠しがり、大将自身もむつかしい顔をしながら、人々へ指図《さしず》をするふうにしてその辺を歩きまわるまで帝は尚侍の曹司をお離れになることができなかった。
「近衛《ちかきまもり》過ぎるね。これでは監視されているようではないか」
と帝はお憎みになった。
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九重《ここのへ》に霞《かすみ》隔てば梅の花ただかばかりも匂《にほ》ひこじとや
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何でもない御歌であるが、お美しい帝が仰せられたことであったから、特別なもののように尚侍には聞かれた。
「私は話し続けて夜が明かしたいのだが
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