》はしゐる鳥のまたなく妬《ねた》き春にもあるかな
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さえずる声にも耳がとどめられてなりません。
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とあった。気の毒なほど顔を赤めて、何と返事もできないように尚侍が思っている所へ帝《みかど》がおいでになった。明るい月の光にお美しい竜顔《りゅうがん》がよく拝された。源氏の顔をただそのまま写したようで、こうしたお顔がもう一つあったのかというような気が玉鬘にされるのであった。源氏の愛は深かったがこの人が受け入れるのに障害になるものがあまりに多かった。帝との間にはそうしたものはないのである。帝はなつかしい御様子で、お志であったことが違ってしまったという恨みをお告げになるのであったが、尚侍は恥ずかしくて顔の置き場もない気がした。顔を隠して、お返辞もできないでいると、
「たよりない方だね。好意を受けてもらおうと思ったことにも無関心でおいでになるのですね。何にもそうなのですね。あなたの癖なのですね」
と仰せになって、
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「などてかくはひ合ひがたき紫を心に深く思ひ初《そ》めけん
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濃くはなれない運命だ
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