えるのですが、大人《おとな》におなりになる初めのお祝いを言わせてもらうことだけは許していただけるかと思ったのです。あなたのお身の上の複雑な事情も私は聞いていますことを言ってよろしいでしょうか、許していただければいいと思います。
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ふたかたに言ひもてゆけば玉櫛笥《たまくしげ》わがみはなれぬかけごなりけり
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と老人の慄《ふる》えた字でお書きになったのを、ちょうど源氏も玉鬘のほうにいて、いろいろな式のことの指図《さしず》をしていた時であったから拝見した。
「昔風なお手紙だけれど、お気の毒ですよ。このお字ね。昔は上手《じょうず》な方だったのだけれど、こんなことまでもおいおい悪くなってくるものらしい。おかしいほど慄えている」
と言って、何度も源氏は読み返しながら、
「よくもこんなに玉櫛笥にとらわれた歌が詠《よ》めたものだ。三十一文字の中にほかのことは少ししかありませんからね」
そっと源氏は笑っていた。中宮《ちゅうぐう》から白い裳《も》、唐衣《からぎぬ》、小袖《こそで》、髪上《くしあ》げの具などを美しくそろえて、そのほか、こうした場合の贈り物
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