た。非常に悪いことではないが、従弟《いとこ》どうしの結婚などはあまりにありふれたことすぎるし、野合の初めを世間の噂《うわさ》に上されることもつらい。後宮の競争に女御をおさえた源氏が恨めしい上に、また自分はその失敗に代えてあの娘を東宮へと志していたのではないか、僥倖《ぎょうこう》があるいはそこにあるかもしれぬと、ただ一つの慰めだったこともこわされたと思うのであった。源氏と大臣との交情は睦《むつ》まじく行っているのであるが、昔もその傾向があったように、負けたくない心が断然強くて、大臣はそのことが不快であるために朝まで安眠もできなかった。大宮も様子を悟っておいでになるであろうが、非常におかわいくお思いになる孫であるから勝手なことをさせて、見ぬ顔をしておいでになるのであろうと女房たちの言っていた点で、大臣は大宮を恨めしがっていた。腹がたつとそれを内におさえることのできない性質で大臣はあった。
二日ほどしてまた内大臣は大宮を御訪問した。こんなふうにしきりに出て来る時は宮の御|機嫌《きげん》がよくて、おうれしい御様子がうかがわれた。形式は尼になっておいでになる方であるが、髪で額を隠して、お化粧もきれいにあそばされ、はなやかな小袿《こうちぎ》などにもお召しかえになる。子ながらも晴れがましくお思われになる大臣で、ありのままのお姿ではお逢いにならないのである。内大臣は不機嫌な顔をしていた。
「こちらへ上がっておりましても私は恥ずかしい気がいたしまして、女房たちはどう批評をしていることだろうかと心が置かれます。つまらない私ですが、生きておりますうちは始終伺って、物足りない思いをおさせせず、私もその点で満足を得たいと思ったのですが、不良な娘のためにあなた様をお恨めしく思わずにいられませんようなことができてまいりました。そんなに真剣にお恨みすべきでないと、自分ながらも心をおさえようとするのでございますが、それができませんで」
大臣が涙を押しぬぐうのを御覧になって、お化粧あそばした宮のお顔の色が変わった。涙のために白粉《おしろい》が落ちてお目も大きくなった。
「どんなことがあって、この年になってからあなたに恨まれたりするのだろう」
と宮の仰せられるのを聞くと、さすがにお気の毒な気のする大臣であったが続いて言った。
「御信頼しているものですから、子供をお預けしまして、親である私はかえって
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