ぜちだいなごん》の夫人になっていて、今の良人《おっと》との間に幾人かの子女が生まれている中において継父の世話を受けさせておくことはかわいそうであるといって、大臣は引き取ってわが母君の大宮に姫君をお託ししてあった。大臣は女御を愛するほどには決してこの娘を愛してはいないのであるが、性質も容貌《ようぼう》も美しい少女であった。そうしたわけで源氏の若君とこの人は同じ家で成長したのであるが、双方とも十歳を越えたころからは、別な場所に置かれて、どんなに親しい人でも男性には用心をしなければならぬと、大臣は娘を訓《おし》えて睦《むつ》ませないのを、若君の心に物足らぬ気持ちがあって、花や紅葉《もみじ》を贈ること、雛《ひな》遊びの材料を提供することなどに真心を見せて、なお遊び相手である地位だけは保留していたから、姫君もこの従弟《いとこ》を愛して、男に顔を見せぬというような、普通の慎みなどは無視されていた。乳母《めのと》などという後見役の者も、この少年少女には幼い日からついた習慣があるのであるから、にわかに厳格に二人の間を隔てることはできないと大目に見ていたが、姫君は無邪気一方であっても、少年のほうの感情は進んでいて、いつの間にか情人の関係にまで到《いた》ったらしい。東の院へ学問のために閉じこめ同様になったことは、このことがあるために若君を懊悩《おうのう》させた。まだ子供らしい、そして未来の上達の思われる字で、二人の恋人が書きかわしている手紙が、幼稚な人たちのすることであるから、抜け目があって、そこらに落ち散らされてもあるのを、姫君付きの女房が見て、二人の交情がどの程度にまでなっているかを合点する者もあったが、そんなことは人に訴えてよいことでもないから、だれも秘密はそっとそのまま秘密にしておいた。后《きさき》の宮、両大臣家の大|饗宴《きょうえん》なども済んで、ほかの催し事が続いて仕度《したく》されねばならぬということもなくて、世間の静かなころ、秋の通り雨が過ぎて、荻《おぎ》の上風も寂しい日の夕方に、大宮のお住居《すまい》へ内大臣が御訪問に来た。大臣は姫君を宮のお居間に呼んで琴などを弾《ひ》かせていた。宮はいろいろな芸のおできになる方で、姫君にもよく教えておありになった。
「琵琶《びわ》は女が弾《ひ》くとちょっと反感も起こりますが、しかし貴族的なよいものですね。今日はごまかしでなくほんとう
前へ
次へ
全33ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング