らったはずです」
 源氏の愛嬌《あいきょう》はこぼれるようであった。
「この御禊《みそぎ》を神は(恋せじとみたらし川にせし御禊《みそぎ》神は受けずもなりにけるかな)お受けになりませんそうですね」
 宣旨は軽く戯談《じょうだん》にしては言っているが、心の中では非常に気の毒だと源氏に同情していた。羞恥《しゅうち》深い女王は次第に奥へ身を引いておしまいになって、もう宣旨にも言葉をお与えにならない。
「あまりに哀れに自分が見えすぎますから」
 と深い歎息《たんそく》をしながら源氏は立ち上がった。
「年が行ってしまうと恥ずかしい目にあうものです。こんな恋の憔悴《しょうすい》者にせめて話を聞いてやろうという寛大な気持ちをお見せになりましたか。そうじゃない」
 こんな言葉を女房に残して源氏の帰ったあとで、女房らはどこの女房も言うように源氏をたたえた。空の色も身にしむ夜で、木の葉の鳴る音にも昔が思われて、女房らは古いころからの源氏との交渉のあったある場面場面のおもしろかったこと、身に沁《し》んだことも心に浮かんでくると言って斎院にお話し申していた。
 不満足な気持ちで帰って行った源氏はましてその夜が眠
前へ 次へ
全29ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング