て思われません境地にただ今はおります私ですから、あなた様の労などは静かに考えさせていただいたのちに定《き》めなければと存じます」
女王の言葉の伝えられたのはこれだった。だからこの世は定めがたい、頼みにしがたいのだと、こんな言葉の端からも源氏は悲しまれた。
[#ここから1字下げ]
「人知れず神の許しを待ちしまにここらつれなき世を過ぐすかな
[#ここで字下げ終わり]
ただ今はもう神に託しておのがれになることもできないはずです。一方で私が不幸な目にあっていました時以来の苦しみの記録の片端でもお聞きくださいませんか」
源氏は女王と直接に会見することをこう言って強要するのである。そうした様子なども昔の源氏に比べて、より優美なところが多く添ったように思われた。その時代に比べると年はずっと行ってしまった源氏ではあるが、位の高さにはつりあわぬ若々しさは保存されていた。
[#ここから2字下げ]
なべて世の哀ればかりを問ふからに誓ひしことを神やいさめん
[#ここで字下げ終わり]
と斎院のお歌が伝えられる。
「そんなことをおとがめになるのですか。その時代の罪は皆|科戸《しなど》の風に追っても
前へ
次へ
全29ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング