寝てしまった女王を置いて出て行くことはつらいことに源氏は思いながらも、もう御訪問の報《しら》せを宮に申し上げたのちであったから、やむをえず二条の院を出た。こんな日も自分の上にめぐってくるのを知らずに、源氏を信頼して暮らしてきたと寂しい気持ちに夫人はなっていた。喪服の鈍《にび》色ではあるが濃淡の重なりの艶《えん》な源氏の姿が雪の光《あかり》でよく見えるのを、寝ながらのぞいていた夫人はこの姿を見ることも稀《まれ》な日になったらと思うと悲しかった。前駆も親しい者ばかりを選んであったが、
「参内する以外の外出はおっくうになった。桃園の女五《にょご》の宮《みや》様は寂しいお一人ぼっちなのだからね、式部卿《しきぶきょう》の宮がおいでになった間は私もお任せしてしまっていたが、今では私がたよりだとおっしゃるのでね、それもごもっともでお気の毒だから」
などと、前駆を勤める人たちにも言いわけらしく源氏は言っていたが、
「りっぱな方だけれど、恋愛をおやめにならない点が傷だね。御家庭がそれで済むまいと心配だ」
とそうした人たちも言っていた。
桃園のお邸《やしき》は北側にある普通の人の出入りする門をはいる
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