がないらしいと夫人は思って、少しくらいは打ち明けて話してもよさそうなものであると、飽き足りなくばかり思った。
冬の初めになって今年は神事がいっさい停止されていて寂しい。つれづれな源氏はまた五の宮を訪ねに行こうとした。雪もちらちらと降って艶《えん》な夕方に、少し着て柔らかになった小袖《こそで》になお薫物《たきもの》を多くしたり、化粧に時間を費やしたりして恋人を訪《と》おうとしている源氏であるから、それを見ていて気の弱い女性はどんな心持ちがするであろうと危《あや》ぶまれた。さすがに出かけの声をかけに源氏は夫人の所へ来た。
「女五の宮様が御病気でいらっしゃるからお見舞いに行って来ます」
ちょっとすわってこう言う源氏のほうを、夫人は見ようともせずに姫君の相手をしていたが、不快な気持ちはよく見えた。
「始終このごろは機嫌《きげん》が悪いではありませんか、無理でないかもしれない。長くいっしょにいてはあなたに飽かれると思って、私は時々御所で宿直《とのい》をしたりしてみるのが、それでまたあなたは不愉快になるのですね」
「ほんとうに長く同じであるものは悲しい目を見ます」
とだけ言って向こうを向いて
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