なった。雪や霙《みぞれ》の降る日が多くて、心細い気のする明石は、いろいろな形でせねばならない苦労の多い自分であると悲しんで、平生よりもしみじみ姫君を愛撫《あいぶ》していた。大雪になった朝、過去未来が思い続けられて、平生は縁に近く出るようなこともあまりないのであるが、端のほうに来て明石は汀《みぎわ》の氷などにながめ入っていた。柔らかな白を幾枚か重ねたからだつき、頭つき、後ろ姿は最高の貴女《きじょ》というものもこうした気高《けだか》さのあるものであろうと見えた。こぼれてくる涙を払いながら、
「こんな日にはまた特別にあなたが恋しいでしょう」
 と可憐《かれん》に言って、また乳母《めのと》に言った。

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雪深き深山《みやま》のみちは晴れずともなほふみ通へ跡たえずして
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 乳母も泣きながら、

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雪間なき吉野《よしの》の山をたづねても心の通ふ跡絶えめやは
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 と慰めるのであった。この雪が少し解けたころに源氏が来た。平生は待たれる人であったが、今度は姫君をつれて行かれるかと思うことで、源氏の訪れに胸騒ぎ
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