ばせて、式の用意を命じていた。
式は式でも紫夫人の手へ姫君を渡しきりにすることは今でも堪えがたいことに明石は思いながらも、何事も姫君の幸福を先にして考えねばならぬと悲痛な決心をしていた。乳母《めのと》と別れてしまわねばならぬことでもあったから、
「気がめいってならない時とか、つれづれな時とかに、どんなにあなたの友情が私を助けてくだすったかしれないのに、これから先を思うと、お嬢さんのいなくなることといっしょにまたそれがどんなに寂しいことでしょう」
と乳母《めのと》に言って明石は泣いた。
「前生の因縁だったのでございましょうね、不意にお宅で御厄介《ごやっかい》になることになりましてから、長い間どんなに御親切にしていただいたことでしょう。私の心に御好意は彫《え》りつけられておりますから、これきり疎遠にいたしますようなことは決してないと思われますし、またごいっしょに暮らさせていただく日の参りますことも信じておりますが、しばらくでも別々になりまして、知らない方たちの中へはいってまいりますことは苦しゅうございます」
と乳母《めのと》も言うのであった。こんなことを毎日言っているうちに十二月にも
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