苦しく存じました二葉《ふたば》の松もいよいよ頼もしい未来が思われます日に到達いたしましたが、御生母がわれわれ風情《ふぜい》の娘でございますことが、御幸福の障《さわ》りにならぬかと苦労にしております」
などという様子に品のよさの見える婦人であったから、源氏はこの山荘の昔の主《あるじ》の親王のことなどを話題にして語った。直された流れの水はこの話に言葉を入れたいように、前よりも高い音を立てていた。
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住み馴《な》れし人はかへりてたどれども清水《しみづ》ぞ宿の主人《あるじ》がほなる
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歌であるともなくこう言う様子に、源氏は風雅を解する老女であると思った。
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「いさらゐははやくのことも忘れじをもとの主人《あるじ》や面《おも》変はりせる
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悲しいものですね」
と歎息《たんそく》して立って行く源氏の美しいとりなしにも尼君は打たれて茫《ぼう》となっていた。
源氏は御堂《みどう》へ行って毎月十四、五日と三十日に行なう普賢講《ふげんこう》、阿弥陀《あみだ》、釈迦《しゃか》の念仏の三昧《さんまい》の
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