。
「桂《かつら》に私が行って指図《さしず》をしてやらねばならないことがあるのですが、それをそのままにして長くなっています。それに京へ来たら訪ねようという約束のしてある人もその近くへ上って来ているのですから、済まない気がしますから、そこへも行ってやります。嵯峨野《さがの》の御堂《みどう》に何もそろっていない所にいらっしゃる仏様へも御|挨拶《あいさつ》に寄りますから二、三日は帰らないでしょう」
夫人は桂の院という別荘の新築されつつあることを聞いたが、そこへ明石の人を迎えたのであったかと気づくとうれしいこととは思えなかった。
「斧《おの》の柄を新しくなさらなければ(仙人《せんにん》の碁を見物している間に、時がたって気がついてみるとその樵夫《きこり》の持っていた斧の柄は朽ちていたという話)ならないほどの時間はさぞ待ち遠いことでしょう」
不愉快そうなこんな夫人の返事が源氏に伝えられた。
「また意外なことをお言いになる。私はもうすっかり昔の私でなくなったと世間でも言うではありませんか」
などと言わせて夫人の機嫌《きげん》を直させようとするうちに昼になった。
微行《しのび》で、しかも前駆に
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