は親しい者だけを選んで源氏は大井へ来た。夕方前である。いつも狩衣《かりぎぬ》姿をしていた明石時代でさえも美しい源氏であったのが、恋人に逢うがために引き繕った直衣《のうし》姿はまばゆいほどまたりっぱであった。女のした長い愁《うれ》いもこれに慰められた。源氏は今さらのようにこの人に深い愛を覚えながら、二人の中に生まれた子供を見てまた感動した。今まで見ずにいたことさえも取り返されない損失のように思われる。左大臣家で生まれた子の美貌《びぼう》を世人はたたえるが、それは権勢に目がくらんだ批評である。これこそ真の美人になる要素の備わった子供であると源氏は思った。無邪気な笑顔《えがお》の愛嬌《あいきょう》の多いのを源氏は非常にかわいく思った。乳母《めのと》も明石へ立って行ったころの衰えた顔はなくなって美しい女になっている。今日までのことをいろいろとなつかしいふうに話すのを聞いていた源氏は、塩焼き小屋に近い田舎《いなか》の生活をしいてさせられてきたのに同情するというようなことを言った。
「ここだってまだずいぶんと遠すぎる。したがって私が始終は来られないことになるから、やはり私があなたのために用意した所
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