ある。昔の例を見ても、年が若くて官位の進んだ、そして世の中に卓越した人は長く幸福でいられないものである、自分は過分な地位を得ている、以前不幸な日のあったことで、ようやくまだ今日まで運が続いているのである、今後もなお順境に身を置いていては長命のほうが危《あぶな》い、静かに引きこもって後世《ごせ》のための仏勤めをして長寿を得たいと、源氏はこう思って、郊外の土地を求めて御堂《みどう》を建てさせているのであった。仏像、経巻などもそれとともに用意させつつあった。しかし子供たちをよく教育してりっぱな人物、すぐれた女性にしてみようと思う精神と出家のことは両立しないのであるから、どっちがほんとうの源氏の心であるかわからない。



底本:「全訳源氏物語 上巻」角川文庫、角川書店
   1971(昭和46)年8月10日改版初版発行
   1994(平成6)年12月20日56版発行
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※校正には、2002(平成14)年4月5日71版を使用しました。
入力:上田英代
校正:kumi
2003年5月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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