ことはうれしかったが、りっぱな姿の源氏に見られる自分を恥ずかしく思った。大弐《だいに》の夫人の贈った衣服はそれまで、いやな気がしてよく見ようともしなかったのを、女房らが香を入れる唐櫃《からびつ》にしまって置いたからよい香のついたのに、その人々からしかたなしに着かえさせられて、煤《すす》けた几帳《きちょう》を引き寄せてすわっていた。源氏は座に着いてから言った。
「長くお逢いしないでも、私の心だけは変わらずにあなたを思っていたのですが、何ともあなたが言ってくださらないものだから、恨めしくて、今までためすつもりで冷淡を装っていたのですよ。しかし、三輪《みわ》の杉《すぎ》ではないが、この前の木立ちを目に見ると素通りができなくてね、私から負けて出ることにしましたよ」
 几帳《きちょう》の垂《た》れ絹を少し手であけて見ると、女王は例のようにただ恥ずかしそうにすわっていて、すぐに返辞はようしない。こんな住居《すまい》にまで訪《たず》ねて来た源氏の志の身にしむことによってやっと力づいて何かを少し言った。
「こんな草原の中で、ほかの望みも起こさずに待っていてくだすったのだから私は幸福を感じる。またあなた
前へ 次へ
全30ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング