いことも昔のままであったなら、待たされる使いがどんなに迷惑をするかしれないと思ってそれはやめることにした。惟光も源氏がすぐにはいって行くことは不可能だと思った。
「とても中をお歩きになれないほどの露でございます。蓬《よもぎ》を少し払わせましてからおいでになりましたら」
この惟光《これみつ》の言葉を聞いて、源氏は、
[#ここから2字下げ]
尋ねてもわれこそ訪《と》はめ道もなく深き蓬のもとの心を
[#ここで字下げ終わり]
と口ずさんだが、やはり車からすぐに下《お》りてしまった。惟光は草の露を馬の鞭《むち》で払いながら案内した。木の枝から散る雫《しずく》も秋の時雨《しぐれ》のように荒く降るので、傘《かさ》を源氏にさしかけさせた。惟光が、
「木の下露は雨にまされり(みさぶらひ御笠《みかさ》と申せ宮城野《みやぎの》の)でございます」
と言う。源氏の指貫《さしぬき》の裾《すそ》はひどく濡《ぬ》れた。昔でさえあるかないかであった中門などは影もなくなっている。家の中へはいるのもむき出しな気のすることであったが、だれも人は見ていなかった。
女王《にょおう》は望みをかけて来たことの事実になった
前へ
次へ
全30ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング