のへきれいな字で書いた。
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遠近《をちこち》もしらぬ雲井に眺《なが》めわびかすめし宿の梢《こずゑ》をぞとふ
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思うには。(思ふには忍ぶることぞ負けにける色に出《い》でじと思ひしものを)
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こんなものであったようである。人知れずこの音信を待つために山手の家へ来ていた入道は、予期どおりに送られた手紙の使いを大騒ぎしてもてなした。娘は返事を容易に書かなかった。娘の居間へはいって行って勧めても娘は父の言葉を聞き入れない。返事を書くのを恥ずかしくきまり悪く思われるのといっしょに、源氏の身分、自己の身分の比較される悲しみを心に持って、気分が悪いと言って横になってしまった。これ以上勧められなくなって入道は自身で返事を書いた。
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もったいないお手紙を得ましたことで、過分な幸福をどう処置してよいかわからぬふうでございます。
それをこんなふうに私は見るのでございます。
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眺むらん同じ雲井を眺むるは思ひも同じ思ひなるらん
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だろうと私には思われます。柄にもない風流気
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