んでいた。
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「ひとり寝は君も知りぬやつれづれと思ひあかしのうら寂しさを
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私はまた長い間口へ出してお願いすることができませんで悶々《もんもん》としておりました」
こう言うのに身は慄《ふる》わせているが、さすがに上品なところはあった。
「寂しいと言ってもあなたはもう法師生活に慣れていらっしゃるのですから」
それから、
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旅衣うら悲しさにあかしかね草の枕《まくら》は夢も結ばず
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戯談《じょうだん》まじりに言う、源氏にはまた平生入道の知らない愛嬌《あいきょう》が見えた。入道はなおいろいろと娘について言っていたが、読者はうるさいであろうから省いておく。まちがって書けばいっそう非常識な入道に見えるであろうから。
やっと思いがかなった気がして、涼しい心に入道はなっていた。その翌日の昼ごろに源氏は山手の家へ手紙を持たせてやることにした。ある見識をもつ娘らしい、かえってこんなところに意外なすぐれた女がいるのかもしれないからと思って、心づかいをしながら手紙を書いた。朝鮮紙の胡桃《くるみ》色のも
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