なた様から都のお話を伺わせていただきますことを空想したものでございました。意外な政変のために御|隠栖《いんせい》になっております土地を今日通ってまいります。非常にもったいないことと存じ、悲しいことと思うのでございます。親戚と知人とがもう京からこの辺へ迎えにまいっておりまして、それらの者がうるそうございますから、お目にかかりに出ないのでございますが、またそのうち別に伺わせていただきます」
 というのであって、子の筑前守《ちくぜんのかみ》が使いに行ったのである。源氏が蔵人《くろうど》に推薦して引き立てた男であったから、心中に悲しみながらも人目をはばかってすぐに帰ろうとしていた。
「京を出てからは昔懇意にした人たちともなかなか逢《あ》えないことになっていたのに、わざわざ訪《たず》ねて来てくれたことを満足に思う」
 と源氏は言った。大弐への返答もまたそんなものであった。筑前守は泣く泣く帰って、源氏の住居《すまい》の様子などを報告すると、大弐をはじめとして、京から来ていた迎えの人たちもいっしょに泣いた。五節《ごせち》の君は人に隠れて源氏へ手紙を送った。

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琴の音にひきとめ
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