らるる綱手縄《つなてなは》たゆたふ心君知るらめや
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音楽の横好きをお笑いくださいますな。
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と書かれてあるのを、源氏は微笑しながらながめていた。若い娘のきまり悪そうなところのよく出ている手紙である。
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心ありてひくての綱のたゆたはば打ち過ぎましや須磨の浦波
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漁村の海人《あま》になってしまうとは思わなかったことです。
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これは源氏の書いた返事である。明石《あかし》の駅長に詩を残した菅公のように源氏が思われて、五節は親兄弟に別れてもここに残りたいと思うほど同情した。
京では月日のたつにしたがって光源氏のない寂寥《せきりょう》を多く感じた。陛下もそのお一人であった。まして東宮は常に源氏を恋しく思召《おぼしめ》して、人の見ぬ時には泣いておいでになるのを、乳母《めのと》たちは哀れに拝見していた。王命婦《おうみょうぶ》はその中でもことに複雑な御同情をしているのである。入道の宮は東宮の御地位に動揺をきたすようなことのないかが常に御不安であった。源氏までも失脚してしまった今日
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