えいよいよ出家するのを見ては悲しいものである。まして何の予告もあそばさずにたちまちに脱履の実行をなされたのであるから、兵部卿の宮も非常にお悲しみになった。参列していた人々も同情の禁ぜられない中宮のお立場と、この寂しい結末の場を拝して泣く者が多かった。院の皇子方は、父帝がどれほど御|愛寵《あいちょう》なされたお后《きさき》であったかを、現状のお気の毒さに比べて考えては皆暗然としておいでになった。方々《かたがた》は慰問の御|挨拶《あいさつ》をなされたのであるが、源氏は最後に残って、驚きと悲しみに言葉も心も失った気もしたが、人目が考えられ、やっと気を引き立てるようにしてお居間へ行った。落ち着かれずに人々がうろうろしたことや、すすり泣きの声もひとまずやんで、女房は涙をふきながらあなたこなたにかたまっていた。明るい月が空にあって、雪の光と照り合っている庭をながめても、院の御在世中のことが目に浮かんできて堪えがたい気のするのを源氏はおさえて、
「何が御動機になりまして、こんなに突然な御出家をあそばしたのですか」
と挨拶を取り次いでもらった。
「これはただ今考えついたことではなかったのですが、昨年
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