た。今日の講師にはことに尊い僧が選ばれていて「法華経はいかにして得し薪《たきぎ》こり菜摘み水|汲《く》み仕へてぞ得し」という歌の唱えられるころからは特に感動させられることが多かった。仏前に親王方もさまざまの捧《ささ》げ物を持っておいでになったが、源氏の姿が最も優美に見えた。筆者はいつも同じ言葉を繰り返しているようであるが、見るたびに美しさが新しく感ぜられる人なのであるからしかたがないのである。最終の日は中宮御自身が御仏に結合を誓わせられるための供養になっていて、御自身の御出家のことがこの儀式の場で仏前へ報告されて、だれもだれも意外の感に打たれた。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮のお心も、源氏の大将の心もあわてた。驚きの度をどの言葉が言い現わしえようとも思えない。宮は式の半ばで席をお立ちになって簾中《れんちゅう》へおはいりになった。中宮は堅い御決心を兄宮へお告げになって、叡山《えいざん》の座主《ざす》をお招きになって、授戒のことを仰せられた。伯父《おじ》君にあたる横川《よかわ》の僧都《そうず》が帳中に参ってお髪《ぐし》をお切りする時に人々の啼泣《ていきゅう》の声が宮をうずめた。平凡な老人でさ
前へ 次へ
全66ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング