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どんなに苦しい心を申し上げてもお返事がないので、そのかいのないのに私の心はすっかりめいり込んでいたのです。
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あひ見ずて忍ぶる頃の涙をもなべての秋のしぐれとや見る
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心が通うものでしたなら、通っても来るものでしたなら、空も寂しい色とばかりは見えないでしょう。
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などと情熱のある文字が列《つら》ねられた。こんなふうに女のほうから源氏を誘い出そうとする手紙はほかからも来るが、情のある返事を書くにとどまって、深くは源氏の心にしまないものらしかった。
中宮は院の御一周忌をお営みになったのに続いてまたあとに法華経《ほけきょう》の八講を催されるはずでいろいろと準備をしておいでになった。十一月の初めの御命日に雪がひどく降った。源氏から中宮へ歌が送られた。
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別れにし今日《けふ》は来れども見し人に行き逢《あ》ふほどをいつと頼まん
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中宮のためにもお悲しい日で、すぐにお返事があった。
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ながらふるほどは憂《う》けれど行きめぐり今日はその世に逢ふ
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