にょご》の兄である頭中将《とうのちゅうじょう》が、藤壺《ふじつぼ》の御殿から出て、月光の蔭《かげ》になっている立蔀《たてじとみ》の前に立っていたのを、不幸にも源氏は知らずに来た。批難の声はその人たちの口から起こってくるであろうから。
源氏は尚侍とまた新しく作ることのできた関係によっても、隙《すき》をまったくお見せにならない中宮《ちゅうぐう》をごりっぱであると認めながらも、恋する心に恨めしくも悲しくも思うことが多かった。御所へ参内することも気の進まない源氏であったが、そのために東宮にお目にかからないことを寂しく思っていた。東宮のためにはほかの後援者がなく、ただ源氏だけを中宮も力にしておいでになったが、今になっても源氏は宮を御当惑させるようなことを時々した。院が最後まで秘密の片はしすらご存じなしにお崩《かく》れになったことでも、宮は恐ろしい罪であると感じておいでになったのに、今さらまた悪名《あくみょう》の立つことになっては、自分はともかくも東宮のために必ず大きな不幸が起こるであろうと、宮は御心配になって、源氏の恋を仏力《ぶつりき》で止めようと、ひそかに祈祷《きとう》までもさせてできる限り
前へ
次へ
全66ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング