、美しくて、艶《えん》で、若々しくて男の心を十分に惹《ひ》く力があった。もうつい夜が明けていくのではないかと思われる頃、すぐ下の庭で、
「宿直《とのい》をいたしております」
 と高い声で近衛《このえ》の下士が言った。中少将のだれかがこの辺の女房の局《つぼね》へ来て寝ているのを知って、意地悪な男が教えてわざわざ挨拶《あいさつ》をさせによこしたに違いないと源氏は聞いていた。御所の庭の所々をこう言ってまわるのは感じのいいものであるがうるさくもあった。また庭のあなたこなたで「寅《とら》一つ」(午前四時)と報じて歩いている。

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心からかたがた袖《そで》を濡《ぬ》らすかな明くと教ふる声につけても
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 尚侍のこう言う様子はいかにもはかなそうであった。

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歎《なげ》きつつ我が世はかくて過ぐせとや胸のあくべき時ぞともなく
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 落ち着いておられなくて源氏は別れて出た。まだ朝に遠い暁月夜で、霧が一面に降っている中を簡単な狩衣《かりぎぬ》姿で歩いて行く源氏は美しかった。この時に承香殿《じょうきょうでん》の女御《
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