のことを尽くして源氏の情炎から身をかわしておいでになるが、ある時思いがけなく源氏が御寝所に近づいた。慎重に計画されたことであったから宮様には夢のようであった。源氏が御心《みこころ》を動かそうとしたのは偽らぬ誠を盛った美しい言葉であったが、宮はあくまでも冷静をお失いにならなかった。ついにはお胸の痛みが起こってきてお苦しみになった。命婦《みょうぶ》とか弁《べん》とか秘密に与《あずか》っている女房が驚いていろいろな世話をする。源氏は宮が恨めしくてならない上に、この世が真暗《まっくら》になった気になって呆然《ぼうぜん》として朝になってもそのまま御寝室にとどまっていた。御病気を聞き伝えて御帳台のまわりを女房が頻繁《ひんぱん》に往来することにもなって、源氏は無意識に塗籠《ぬりごめ》(屋内の蔵)の中へ押し入れられてしまった。源氏の上着などをそっと持って来た女房も怖《おそろ》しがっていた。宮は未来と現在を御悲観あそばしたあまりに逆上《のぼせ》をお覚えになって、翌朝になってもおからだは平常のようでなかった。
兄君の兵部卿の宮とか中宮大夫などが参殿し、祈りの僧を迎えようなどと言われているのを源氏は苦しく
前へ
次へ
全66ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング