ら、まして源氏の歌はお心を動かした。

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今も見てなかなか袖《そで》を濡《ぬ》らすかな垣《かき》ほあれにしやまと撫子
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 というお返辞があった。
 源氏はまだつれづれさを紛らすことができなくて、朝顔の女王《にょおう》へ、情味のある性質の人は今日の自分を哀れに思ってくれるであろうという頼みがあって手紙を書いた。もう暗かったが使いを出したのである。親しい交際はないが、こんなふうに時たま手紙の来ることはもう古くからのことで馴《な》れている女房はすぐに女王へ見せた。秋の夕べの空の色と同じ唐紙《とうし》に、

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わきてこの暮《くれ》こそ袖《そで》は露けけれ物思ふ秋はあまた経ぬれど

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「神無月いつも時雨は降りしかど」というように。
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 と書いてあった。ことに注意して書いたらしい源氏の字は美しかった。これに対してもと女房たちが言い、女王自身もそう思ったので返事は書いて出すことになった。
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このごろのお寂しい御起居は想像いたしながら、お尋ねすることもまた御遠慮され
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