たのでございます。
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秋霧に立ちおくれぬと聞きしより時雨《しぐ》るる空もいかがとぞ思ふ
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とだけであった。ほのかな書きようで、心憎さの覚えられる手紙であった。結婚したあとに以前恋人であった時よりも相手がよく思われることは稀《まれ》なことであるが、源氏の性癖からもまだ得られない恋人のすることは何一つ心を惹《ひ》かないものはないのである。冷静は冷静でもその場合場合に同情を惜しまない朝顔の女王とは永久に友愛をかわしていく可能性があるとも源氏は思った。あまりに非凡な女は自身の持つ才識がかえって禍《わざわ》いにもなるものであるから、西の対の姫君をそうは教育したくないとも思っていた。自分が帰らないことでどんなに寂しがっていることであろうと、紫の女王のあたりが恋しかったが、それはちょうど母親を亡《な》くした娘を家に置いておく父親に似た感情で思うのであって、恨まれはしないか、疑ってはいないだろうかと不安なようなことはなかった。
すっかり夜になったので、源氏は灯《ひ》を近くへ置かせてよい女房たちだけを皆居間へ呼んで話し合うのであった。中納言の君という
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